レンタル彼氏【完全版】
俺はどのぐらい泣いたのかもうわからなかった。


もう、身体中の水分全て出てしまったんじゃないか。

そう思えてしまうぐらい、俺は泣き続けていた。




暫くして、誰かがやって来る。



「おばさんっ、泉は?!」


その子は泉の母親に話し掛けて、様子を聞いている。

相当走ったのか、息がかなり切れている。



あれから、俺は看護婦に促されるままベンチに座っていた。

壁にもたれかかって、何も見ることが出来ない。



ただ、これが夢であればいいのに。

そう、願うだけ。




「……あの人は?」


その子は泉の母親にそう尋ねた。

多分、俺のことだろう。




「……あの人の所為で…泉がこんなことに」


忌々しげに母親の言う声が聞こえる。


「えっ!まさか!」


驚いた声を出した後、その子は泉の母親から離れて、俺の目の前まで走り寄って来た。



自分の頭上が暗くなる。
でも、俺は顔を上げることはない。




誰だろうと関係ない。




「………もしかして、伊織?」






その子から急に出た俺の名前。

……そう、俺の名前は伊織だ。
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