レンタル彼氏【完全版】
「…伊織」


「………ん」


「レンタル彼氏って残酷だね」


「…………」



長い沈黙の後、伊織は宙を仰ぎながら

「…そうだな」

一言、呟いた。

その顔は苦しそうでも、悲しそうでもなかった。
ただ、その言葉に納得したような顔。


「…やめたい?」


私に視線を絡めた伊織が、そう尋ねる。


「やめたくない」


私の本心。
だって、伊織とは今日始まったばかりだ。


私は何もわかってない。

伊織を知りたいんだ。



知りたいけど、今のままでは伊織を知るどころか、離れる一方だ。
じゃあ、視点を変えたらいい。



「伊織!」


「……」


「私のこと知ってよ!」


「は?」


ポカンと口を開ける伊織の腕を掴んで、私達は店から出た。

なすがままに引っ張られていた伊織は、我に返ったのか私の手を振りほどいた。



「いきなり、どうしたわけ?」



裏の伊織か、表の伊織か。
混ざりあったような伊織。
どっちでいけばいいのか、伊織もよくわからなくなってるのかもしれない。


最初から素の伊織を知ってる相手はいなかっただろうから。



「伊織のこと聞く前に私のこと知って」
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