建築散歩
彼は建築学科の学生であった。

アルバイトとしてこの会社で時々手伝いをしているという。

私があまりに建物に興味を示していた為、嬉しそうに話をしてくれた。

『私ね、この建物がとっても好きで…でも会社でしょう?入りたくてもはいれない憧れの建築物だったの。それが先日散歩中に、開放されているのを知って。こんなチャンスないって思って来たの』

そう話すと彼は
『さっき、ステンドグラスよりも天井を見られてたから、そうかと思いました。』 といい、
そうでしょ?!と言わんばかりに楽しそうに話し始めた。
『飽きませんね。いつまでも。この建物は、毎日新しい発見があるんです。古い建物はとっても細かい部分まで、デザインも建築物としてもこだわって作ってあるんです。この地域は古くて素晴らしい建物ばかりなんです。学校で研究してて…』

と、部屋の細部から空調機のことまで全て丁寧に説明をしてくれた。



あぁ 久しぶりに夢を持った若い人に出会ったな。
なんて生き生きと話してくれるんだ。

私はなんとも清々しい気持ちになった。


そして彼は贅沢にも、2階、地下まで案内をしてくれた。

驚きと感動で 私はいちいち感嘆の声を漏らしていた。

それを聞いて、また彼は誇らしげに説明をしてくれた。

『ほら、この手すり一つだってこんなに滑らかにカーブを作っているでしょ?これは昔の建物独特なんです』

やはり白いペンキを塗られた木の手すりを、優しくいとおしむように彼は触った。
私は彼とその手すりを何かとても優しい柔らかな気持ちで眺めていた。



新しい空調機
落ち着いたスタイリッシュなインテリア
そして古き良き建築の融合。


こんなにも魅惑的な空間があるなんて。


そしてそれをこんなにも真っ直ぐ愛し、目指す若者がいるなんて。


独り占めしている会社が、改めてなんとも羨ましく思えた。

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