『世界』と『終』  ——僕がきみを殺したら——
ほんとうですね、西森も同意する。


不自然な体勢で横たわっているからか、それとも空気が悪いせいか、声はいつもよりにごり気味だ。
だが、恐怖や焦りといった色はない。いつもの西森だ。

縛られ転がされてはいるが、外傷はないようだ。なぜかそのことを確認している。


苦しくはないかと、僕は訊いた。


体が痺れます、と不快げに眉をひそめる。
「昨夜からこの状態なんですもの。べつに縛らなくても、逃げたりしないのに」


「様式美だろう」


鎖で縛られ転がされた西森の姿は、ある種のマニアには脳内興奮物質を分泌するスイッチになるだろう。

「本当は、さるぐつわも噛ませるつもりだったみたいです。声は出さないと言って、伊藤さんにそれは分かっていただけたみたいで・・・」


僕にとって不快なことに、求めてやまない西森の首は、異様なものでおおい隠されていた。
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