Sweet Room~貴方との時間~【完結】
「杉山、何? 人の顔、じっと見て」
「えっ、あっ、寝不足でボーッとしていただけですよ。買い出しはいつも通りにします」
「ごめんなさい。私のせいよね、寝不足になったの」
「やあ、まあ……、気にしないでください。あれだけ大変だった仕事が終わったんだし、羽目外したくなるのも分かりますから」
「それだけじゃないけどね……」

 言わなくていいことを言ってしまった。
 杉山は3個目のおにぎりに手を伸ばし、近くにあったフリーペーパーみたいな物をパラパラとめくる。
 聞こえたのに、聞こえない振りしてくれたんだ。今の私には、とても有難い優しさだった。

「杉山、さっきから何を熱心に見てるの?」
「ここのホテルの案内を。スイートって豪華だなと、思って」

 スイートルームの写真が載っているページを開いて、こっちに向ける。

「本当だ。すごいわね。でも、最上階だから眺めはいいかも。近くにある遊園地の観覧車とか見えそうだし」
「そうですね。人生に一度くらいスイートルームって、泊まってみたくありませんか?」
「男の人も、そういうこと思うんだ」
「まあ、豪華な気分を味わいたいだけですよ」
「そうね。スイートルームに泊まりたい理由なんて、そんな感じよね」

 それからは当たり障りのない話をした。ただ、杉山の笑顔に弱い私がいた。多分、メルに似ているから。ふわふわした黒髪とか、少し大きめの黒目とかが。

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