Sweet Room~貴方との時間~【完結】
「佐伯、杉山、先に店へ行っててくれ。俺は後から彼女と行くから」
 中野工房との仕事が動き出し、忙しくなり始めた頃。例の松下さん達との食事会の日になった。

「ねえ、どこでご飯食べるの?」
「奈央美は行くのは初めてかも。小料理屋『道草』。俺は松下さんに時々連れて行って貰うんだけど、ここの厚揚げがすごく美味しいんだ」
「へえ」

 涼太はあの日以来、中野先輩のことについて聞いてこない。私も何も言う気はない。先輩には仕事以外で会う気もないし、今更どうこうなる気なんてさらさらない。

 少し細めの路地に入ると、『道草』と書かれた暖簾が見えた。引き戸を開けて、中に入る。『道草』は定番の小料理屋という感じだった。
 テーブルに付くと、品の良いおかみさんがカウンターの奥から出てきた。

「いらっしゃいませ」
「後から2人来るんで、注文はその時に」
 おかみさんは私の顔を見てにっこり微笑むと、お茶を置いて「わかりました、ごゆっくり」と言って、テーブルから離れた。

 各テーブルに飾られている一輪挿しには、青い小さな花が生きられていた。おかみさんの品の良さがその花にも表れている。小料理屋もたまには良いなと思いながらメニューを眺めた。

< 110 / 207 >

この作品をシェア

pagetop