Sweet Room~貴方との時間~【完結】
「なんかビックリだよな。松下さんの結婚」
 電車から降り、私のアパートに向かう道。手をつなぎながら、松下さんたちのことを話していた。
「うん」
「たまに『結婚したらどうですか』みたいなことは、松下さんに言ってたけどさ。こんなに早く結婚するとは思わなかったな」
 涼太は空を見上げながら言った。

「そうだね。でも、松下さんと野沢さん、同棲しているからかもしれないけれど、どこから見ても夫婦だったよね」
「うん。でも、あの2人から見ると俺達も夫婦みたいらしいね」
 その言葉で、さっきの野沢さんの言葉を思い出して、顔が熱くなる。涼太の方を見ると、こっちを見て笑っていた。

「着いたぞ」
 アパートのエントランス前に着き、手を離した。
「寄っていかないの?」
 いつもはコーヒーを飲んでから帰るのに、今日は違うらしい。
「ああ、今日はいいや」
「明日も休みなんだし、寄っていきないよ」
「いや、俺、酒が入ってるし。何ていうか、そのいろいろな事情というか。とにかく今日は帰るよ」
 また、涼太に気を遣わせてしまった。私が踏み出さないと……。背を向けた涼太の前に回り込んだ。
「涼太、その、大丈夫だよ。大丈夫だから。涼太、あのことがあったから、気を使ってくれたんだよね」
 涼太は何も言わず、私を見つめる。恥ずかしくても、言わなきゃ伝わらない。

「帰っちゃ、やだ」
 精一杯の勇気を振り絞って、声を出した。
「俺も帰りたくないよ」
 涼太の温かい手が私の手を握った。
< 115 / 207 >

この作品をシェア

pagetop