Sweet Room~貴方との時間~【完結】
 杉山がチェックアウトを済ませるのを待ち、ホテルの外に出た。土曜日の朝は平日に比べると人が少ない。
 いろいろ迷惑を掛けてしまったし、ホテルの前で別れるのも悪い気がして、一緒に駅まで行くことにした。最初は「別にいいですよ」と断られたけど、杉山の言葉を無視して、隣に並んで歩いた。

 無言で歩く私たち。杉山と一緒に歩くことなんて、何度もある。仕事帰り、買い出し、お得先への挨拶。その時、横にいるのは後輩で部下の杉山。今、私の隣にいる杉山は何だろう?

 歩きながら、横目で杉山を見る。背、高いな。5センチのヒールを履くと170センチ以上になる私よりも高い。185センチくらいあるのかな。
 杉山の黒髪を見ると、頭を撫で撫でしたくなる。メルのことなんて、ここ何年も思い出すことはなかったのに。


 駅の改札口に着くと「じゃあ、失礼します」と、杉山が言った。

「うん。いろいろとありがとう。お姉さんに『ありがとうございました』って、伝えておいて。私が直接、言うべきなんだけど……。それで、お姉さんが変な勘違いしてもね」
「ああ、はい。姉は大体、状況は分かっていますよ。『いつも出来の悪い弟が迷惑かけてるんだから、これくらいいいわよ』って、言ってましたから。気にしないで下さい」
「本当にありがとう。気を付けて帰ってね」
「佐伯さんも気を付けて」

 そう言って改札を抜ける杉山の姿を見届けた。1回くらい、振り向いてくれたっていいじゃない。ちょっと寂しい思いを残したまま、駅から離れた。
 ゆっくりと歩きながらアパートに帰る。途中、コンビニでコーヒー牛乳を買った。

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