Sweet Room~貴方との時間~【完結】
「杉山、この図面、今週中に仕上げられる?」
「はい、わかりました」と言って、佐伯さんから手書きの図面を受け取る。


 俺の働いているのはデザイン事務所。大学の建築学部で勉強していた俺は、この事務所の社長、新井 創(あらい そう)の作った美術館を見て、初めて建物の前から動けなくなった。芝生の中にポツンとある四角い白い箱。ただそれだけだった。こんな建物が存在するのか。単純過ぎて、誰もやらないことをやってしまえる建築家がいるんだと思った。

 結局、中にも入らず、家に帰った。ネットで調べ、新井創にたどり着いた。それからは新井創に関する書籍を読みあさった。そして『ARAI DESIGN』に就職することができた。


 図面と敷地を見ながら、修正をかける。パソコンの画面には平面図、立面図ができあがっていく。
「杉山、図面描くの早くなったわね」と、佐伯さんが画面を覗き込みながら言う。

 顔が近づくとふわっと甘い青りんごの香りがする。
 決して女を使わず、1人のデザイナーとして誇りをもっている彼女のイメージにピッタリだ。
 こんな甘い香りを嗅いだら、抱きしめたくなる。それをグッと抑えて「佐伯さんの指導のおかげです」と答えた。
「そんな風に褒めても何も出ないわよ」
「真実を言っただけです」
 佐伯さんは「ふーん」と言って、自分のデスクに座った。

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