Sweet Room~貴方との時間~【完結】
 松下さんは必ず俺を飲みに誘うときは、小料理『道草』に連れて行く。

「あら、松下さん、いらっしゃい。今日は杉山さんも一緒なのね」
 ここの女将さんは40代後半くらいで、いつも品のいい着物を着ている。そして季節感を意識したものが多い。春は薄い桜色やオレンジ。夏はモスグリーンや水色。秋は茶色や柿色。冬は濃紺や青。今日は爽やかなグリーン。もう5月だからな。

「女将さん、ビール2つ。それと枝豆」
 カウンター席の椅子に座りながら松下さんが注文をする。
「ビールと枝豆ですね」と言って、女将さんは暖簾を潜って厨房の方へ消えていった。
「ほれ、ビールと枝豆が来るまでに頼みたいもの選べば」
 松下さんがメニューを手渡す。俺はお言葉に甘えて、食べたいもの選ぶことにした。
 どうせ、俺の恋愛事情を聞き出すつもりだろう。その対価だ。
「お待たせしました」
 女将さんはビールと枝豆を置くと、カウンターの中へ入りグラスを磨き始めた。

「さて、軽く乾杯するか」
「はい」
 ジョッキを持ち上げ、コツっと鈍い音を鳴らしてからビールに口を付ける。程よい疲労感がある体には、まるで栄養ドリンクのように体が元気になる。

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