Sweet Room~貴方との時間~【完結】
「はい。体調管理も仕事の1つですから」
「だな。俺も彼女に煙草を減らせって、怒られてる」
「それは守ったほうがいいと思いますけど」
「一応は頑張ってるんだけどな。佐伯、もう1つ聞いていいか?」
「何ですか?」
「杉山と何かあった?」

 突然の杉山が出てきたことで焦る。今朝の笑顔が頭の中でポストカードのように現れたから。
「何もないですよ。どうしてそんなことを?」
「今朝、2人が事務所に入って来たときにね。杉山は特に変わんない、いや、ちょっと違うな。それ以上に違うのが佐伯」

 そう言われても困る。ざっくり言ってしまえば、失恋して、杉山のさりげない気遣いに癒された、それだけだ。私の中でそんなことが起きてること自体、杉山は知らない。ただ感謝の気持ちがあるぐらい。その程度の変化でしかない。

「慰労会で酔っ払って、社長の命令で仕方なく私を送ってくれた杉山に感謝してるだけですよ」
「そうか。変なこと聞いて悪かったな」
「いいえ。ご心配おかけしました」

 きっと、松下さんはこの答えに納得してない。でも、私が話そうとしていないことを気付いているんだろう。これは時間が解決してくれる。小さくなった失恋の傷が完治するまで、あと少し。それまでは強がりという盾を使う。28年生きてきた私が得た技。

 そのあとは、松下さんとは仕事の話をしながら昼ご飯を食べた。鯖の味噌煮を一口食べたとき、おばあちゃんの鯖の味噌煮を思い出した。 
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