Sweet Room~貴方との時間~【完結】
 * * *

 小説や映画の恋は最高の部分で終わる。でも、現実の恋はそうはいかない。最高からどん底へ落とされるときだってある。

 奈央美が最近、新しい仕事が入った。それは中野工房と共同で2つの古民家をくっつけて、1つのフランス料理店にするというもの。
 この中野工房代表の中野さんのことを奈央美は“中野先輩”呼んでいる。随分と親しい間柄のようで。
 こういう風にイライラしている時にやって来るのが松下さんだ。俺が中野さんのことを話すと「へえ、先輩ね。案外、元彼かもよ」言ってきた。それぐらい俺だってわかってるよ。ただ、人に言われると余計に確信めいたものなってしまうじゃないか。

 俺は俺で、高校時代の友人である広岡一伸(ひろおか かずのぶ)、ノブの依頼でペンションの設計の仕事が入ってきた。その仕事の関連でキッチンメーカー『シルバー・ラボ』と契約を取るために必死になっていた。もうここの社長が曲者で、何度も心が折れそうになっている。

 気が付けば、お互い仕事が中心となり、一緒に過ごす時間が明らかに減ってしまった。
 やっとできた2人だけの時間に、俺は言ってしまったんだ。


「奈央美、新しい仕事で一緒にやっている中野工房代表の中野さんって、元彼?」と。

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