Sweet Room~貴方との時間~【完結】
「そうか」
「あの、社長」
「何だ?」
「社長が友里ゆりさんへの婚約指輪を買った時、ジュエリーショップに入るのって、気合が要りましたか?」

 社長は愛妻家で奥さんの友里さんは『ARAI DESIGN』の経理を担当している。社員全員が目標にするような仲睦まじい夫婦。

「そりゃそうだ。気合を入れて店の前に行くんだけど、素通りしてしまったよ。結局、次の日に出直した」

 仕事でそんな弱気な姿は絶対に見せない社長。そんな社長がジュエリーショップの前でうろうろしている姿を想像すると笑ってしまう。
 あ、杉山はどうだったんだろう。

「杉山も最近、何店舗かジュエリーショップ行ったでしょ? 杉山も素通りした?」
「しました。しかも僕は客ではないので、ますます入りにくかったです」
「そうだよな。涼太の方が店に入るのに、よっぽど気合が要ったよな」
 社長は「ちょっとした罰ゲームだな」と笑いながら、そのまま会議室を出て行った。

「男の人も大変ね」
「そうです。女性から見れば、男なんて楽な生き物に見られがちですけど、男には男の大変さがあるんですよ」
 そうかもね。女の大変さが男には分からないように、男の大変さを女が分からないのは当然かもしれない。今回の仕事では、そんなことをよく考えていた。
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