Sweet Room~貴方との時間~【完結】
 そういう顔になるのも無理はない。外観を描いたデザイン画。そこにはダークブランのドア。中が見えるようにするためのガラスもない、ただのドア。その代わり、ドア以外はウィンドウディスプレイを多くし、ショップの中が見えるようにしてある。

 何時間も粘って考えたデザイン。このデザイン画を見ると杉山が入れてくれたコーヒーの味を思い出す。

「自動ドアではなく、あえて手動のドアにしました。人は手に力を入れると気合が入ります。ドアを自分の力で開けることで、男性のお客様に気合を入れてもらうんです。ただ、中が見えるようなガラスがドアに付いていると、店員の方と目が合って微笑まれたり、強ばった顔が見られたりしてしまう。そういう些細なことが男の気合を鈍らせてしまうので、あえてガラスは付けていません」

 杉山の説明が全て終わると、中原さんは資料をもう一度見直す。
 横目で杉山を見ると、膝の上に置かれている手は硬く拳を握っていた。掌に潜り込んでいる指が赤くなっているのが見える。

 中原さんは資料から顔を上げると「面白いです。杉山さんが言ったこと、私も少しわかります。多分、女性なら初めて行く美容院に対して、そういう気合を入れますね。確かに自動ドアより、手動のドアを開ける方が気合が入りますし。このデザインで勧めてください」と言った。

 杉山はこっちを見て、勢いよく立ち上がる。
「ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします」
 体を直角に曲げる杉山と同じように、私も同じようにした。

 よかったね、杉山。
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