Sweet Room~貴方との時間~【完結】
――ピンポン、ピンポン


 その音で啓介の動きが止まった。私の手も無意識に動く。肩に手をかけて、力一杯押す。少しできた空間から体を引き抜いた。そして玄関を目指す。
 助けて、助けて!
 心で叫んでいるのか、声が出ているのかもわからなかった。広くもない部屋が大きく感じて、玄関が見えるのに近づけない。
 また片腕を掴まれ、その場で押し倒された。


――ピンポン、ピンポン


 視界の端に杉山の携帯が見えた。何故だろう、ドアの向こうにいるのが杉山だと思った。その携帯を掴み、ドアに向かって投げると、鈍い音がする。

「何してるんだよ!」と言った啓介に、突然、頬を叩かれた。

 この人は誰? 怒りや憎しみ、悲しみ。一体、どの感情を目に表しているのだろう。ただ、私が失恋しても好きだった人の姿ではない。

「いや! やめて、離して!」

 最後の望みを託して、今出せる声を全て出し切った。
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