Sweet Room~貴方との時間~【完結】
「他にも女がいるんでしょ。いつも長い髪が落ちてた。洗面所のゴミ箱には使い終わったコットンが捨ててあった。シンクには口紅の付いたコップがよくあった。気づいてないと思った?」

 別れ話の時にすら言えなかった言葉、言いたかった言葉が口から溢れ出ていた。話すたびに左頬が微かに痛んでも、気にならなかった。

「付き合いだして3カ月くらいで、他に女がいるなと思った。その時、すぐに別れればよかった。あの時期、仕事が忙しくて、そういうことから目を逸らすのが簡単だったの。だからズルズル1年も付き合ってた。こんな関係よくないって思ったから、別れたの。別れて正解ね。こんなことするような男」

 目は熱いし、口はカラカラで、喉が痛い。
 杉山の手の平が後頭部に回り、また、杉山の胸に顔を埋めることになった。

「もう帰れよ。振られた原因もわかっただろ。二度とここには来るな。二度と彼女の前にも現れるな。それを約束してくれれば、警察には言わないでおいてやる」
 数秒の静寂、そしてドアが閉まる音が聞こえた。

「佐伯さん、もう大丈夫ですよ。大丈夫ですから」
「すぎ、やま。うっ、こわ、かった」

 小さな子供をあやすような杉山の声を聞いたら、涙が止まらなくなった。喉が痛くても、声を上げて泣いた。こんな風に泣いたのはいつが最後だったのだろう。いつがわからないかくらい、遠い昔のことなのかもしれない。

 杉山は私が泣き止むまで、ずっと背中を摩ってくれた。
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