Sweet Room~貴方との時間~【完結】
「さっき、ここ、殴られたんじゃないですか?」
「うっ、うん。なんで?」
「片方の頬だけ、赤くなっていたから。腫れないよう、痛みはなくても冷やしておいた方がいいですよ。口の中とか切っていませんか?」
「うん、大丈夫」
 タオルを押さえている手の上に自分の手をそっと重ねる。

「杉山、自分でできるから。手、冷えちゃったね」
「すぐ温かくなりますよ」
 タオルと杉山の手を握り、顔から離す。両手で冷えてしまった杉山の手を包んだ。

「さっきは助けてくれてありがとう。杉山が助けてくれなかったらどうなっていたんだろう」
 シャワーを浴びている時も、ずっとそのことを考えていた。きっと、私も、啓介もボロボロになったはず。こんな時だって、元彼のことを少しでも心配してしまう自分に、もう1人の自分が冷やかな目線を送っていた。
「そんなことは考えなくていいんですよ。忘れましょう」
 その言葉に頷いたとき、隣のローテーブルにある黒い携帯が目に入った。

「うん。あの、ごめんなさい。さっき、携帯、投げちゃったの」
「ああ、大丈夫ですよ。さっき、確認したら壊れてなかったんで。それにガラケーは丈夫ですから。だからスマホには変えられないんですよ」と言って、杉山が笑ってくれた。
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