Sweet Room~貴方との時間~【完結】
「佐伯さん、家まで送りますよ。」
「まだ19時前よ。大丈夫」
「その格好で1人は危ないですから」

 私が何も言わないでいると、杉山は私の横を並んで歩いていた。
 アパートの近くにある公園の前に来ると、思わず「うわ」と歓声を上げてしまった。そこにはもう少しで満開になりそうな桜が咲いている。

「少し見ていきましょうか? 夜桜見物」と、桜を指差した杉山が言った。
「うん。奇麗。春だね」
「そうですね」
 桜を見上げる杉山の横顔を眺めた。私は杉山とどうなりたいのだろう。

「ねえ、杉山」
「はい」
「杉山は、人を助けるためなら、誰にでも彼氏のフリをするの?」
「え?」
「だから、誰にでも彼氏の振りをするの?」

 自分で見つけることのできる答えを、私は杉山から先に言わせようとしている。

「しないですよ」
「じゃあ、なんで? 今日も、元彼にも、不動産屋にも、私の彼氏のフリをしたの?」
「願望です」

 私が見つけたい答えを杉山は言ってくれるかもしれない。
 杉山の背後にある桜が風で揺れる。私は期待と希望の間で揺れている。
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