彼方は、先生だけど旦那様。
「ちょっとお!
早くしてよ!負けちゃうよ!!」
「ボーイズ遅い!!
ほんと坊ちゃんって使い物に
ならないのね!」
「れんれーん!
園内マップみせてー!!」
はい、只今借り物競争中です。
始まって早々、愛里爽の声が鳴り止みません。
というか、人形のような容姿からは
想像できない元気さです。
班のメンバーの前を颯爽と走っている
愛里爽はなんだか男前で
カッコいいです。
ちなみに、借り物競争の班のメンバーは
五人います。
「あんなうるせーお嬢様があるかよ!」
と、愚痴をこぼしているのは
赤坂・晴真(あかさか・はるま)君です。
私の隣の席の男の子です。
「ああん?なに?
私に逆らうの?そんなの許されると
思ってんの?」
「恐い恐い!!汗
愛里爽落ち着こ!」
「落ち着いてられないよ!
恋々からも何か言ってやってよ!」
「そ、そう言われても…。」
「そこゴタゴタしてないで
さっさと終わらせちゃおうよー。」
気だるそうにそう言ったのは
晴真君の後ろの席の
大宮・経(おおみや・たつ)君です。
「じゃああんたも少しは協力
しなさいよ。」
…と、またまた愛里爽の怒声。
「喧嘩中に悪いんだけどさ、
借りる物ちょうど五個あるから
手分けして借りてきた方がよくない?」
…そう発言したのは颯君です。
その言葉で走っていた皆が
立ち止まりました。
「それもそうね!
そうしましょっ。」
さっきまで怒っていた愛里爽の表情が
パアッと明るくなり
少し空気が和らぎました。
この借り物競争は、
普通の借り物競争と少しルールが違います。
とりあえずは、先生からそれぞれの班へ配布された紙に借りてくる物が五個
書いてあって、それを借りて一番に
グラウンドに戻ってきた班が勝ち。
と、ここまでは一般的な借り物競争ですが、ただ一つ違うところ。
それは借りてくる人が決まっているというところです。
例えば、◯◯先生の手帳…
という感じに。
そして、
私たちの班がもらった紙に書いてある
物はというと…。
1.神田先生のネックレス
2.ウサ丸の人参
3.東堂先輩のユニフォーム
4.岸谷先輩のバレエシューズ
5.鷹峯先生のネクタイ
………。
5.鷹峯先生のネクタイ…。
…よりによって薫先生の名前が
出るとは…。
「よし!じゃあ誰が何を借りてくるか
決めよ!」
そう意気込んでカッターシャツの袖をまくる晴真君。
小麦色の肌が素敵です。
「俺何でもいいから勝手に決めてよ。」
黒縁メガネをカチャリ直しながら
そう言う経君。
いつまでもポーカーフェイスです。
「んもう!
ここは平等にジャンケンしましょ!
勝った順に1、2、3…ね!!」
右手を大きく振り上げ
ジャンケンのスタンバイをする愛里爽。
うん、男前です。
「じゃあジャンケンしよ!
せーのっ、じゃんけーん……、」
「待って。
僕、鷹峯のネクタイ借りてくる。」
私の声を遮り、そう言ったのは
颯君でした。
「え…」
ちょ、そ、それは
かなり危険では……。汗
今薫先生と颯君を二人きりにすると
どうなるかわからないです。
それだけは阻止しないと!!!!
「い、いや!
それなら私が薫先生の借りる!」
「!!
だめだめ!絶対恋ちゃんに行かせないから!!」
「じゃあ他の人に薫先生の所に
行ってもらえば大丈夫よ!」
「だめだめ!
僕だって鷹峯に用あるんだから!」
「だめだめだめだ…」
「うるさーい!二人とも!
二人が仲が良いことはわかったから
早くジャンケンするよ。
言うこと聞かなかったらどうなるか…
…わかる?」
ひぃぃぃい!
言葉とは真逆の愛里爽の表情が
恐いです…。
「「ワ、ワカリマシタ!
ジャンケンシマス!」」
…と、いうことでジャンケンの結果
こうなりました。
1.神田先生のネックレス→経君
2.ウサ丸の人参→愛里爽
3.東堂先輩のユニフォーム→晴真君
4.岸谷先輩のバレエシューズ→颯君
5.鷹峯先生のネクタイ→私
…なんと運の悪い…。
でも薫先生と颯君が二人きりで会うことにならなくて良かったです。
「んじゃ、皆絶対に借りてこようね!
そんでまたグラウンドに集合!
からの一番でゴール!!」
「おしっ!」
「ほーい。」
「はあ。よりによって恋ちゃんが…。」
「が、がんばろ!!」
さあ、ドキドキの借り物競争の再開
です。