彼方は、先生だけど旦那様。
「はあっ…はあっ、薫様!」
ようやく薫様に追いつくことが
できました。
「……。」
無言で立ち止まった薫様の顔を
恐る恐る覗くと、
暗くてよく見えませんでしたが
その表情には悲しみが見え隠れしているように感じました。
「…どうしました?」
…どうしたかなんてわかってます。
きっと颯君がいたことが不満だったんでしょう。
それでも、ちゃんと言って欲しくて。
私にだけ何でも曝け出して欲しくて。
ビュウッ
春の夜風は意外に冷たくて、
思わず自分の手をこすり合わせました。
その時、
温かいものが私の手を包みました。
大きくて骨ばっていて
しっかりした手。
「…とりあえず、中行こ。」
「はい、」
薫様に手を引かれ、そのまま
家の中へ入りました。