「1495日の初恋」
消灯時間を過ぎたロビーは薄暗い。
あれっ?
ほんのり照らされている窓際の椅子に、見慣れた人影。
…上原くんだ…。
背を向けて座っているけれど、あれは絶対に上原くんだ。
私は後ろから、上原くんの肩を叩いた。
上原くんの肩が、ビクリと上下する。
バサッと何かをお腹に隠して、ゆっくり後ろを振り向いた。
「なんだ、結か。びっくりさせんなよ。」
私はごめんと小さく言って、上原くんの向かいに座る。
「また漫画?」
「そうだよ、悪いか?」
上原くんは、お腹に隠した漫画を取り出して、パラパラとページを開く。
「ここで、何してんの?」
「部屋がうるせーから、ここで漫画読んでんだよ。お前こそ、なんでこんなとこにいるんだよ。」
「あ、私は…。」
上原くんが綾香と付き合うって知って、それが辛くて部屋を出てきたなんて、絶対言えない。
気持ちとは裏腹な言葉が、こぼれて落ちた。
「…上原くん、綾香と付き合うんだってね…おめでとう…。」
私の言葉に、ページをめくる手が一瞬止まる。
「おめでとうじゃねーよ、あいつが強引に…いや、なんでもない。お前も矢島と付き合うんだってな。」
漫画を閉じて、上原くんは私を見る。
「え、あ…だから…。」
上原くんの目が、私をチクチク刺していく。
「矢島、ずっと喜んでたぜ。あいつ、部屋でお前と付き合う付き合うって、うるせーから…。」
「…。」
私は何も言えなかった。
私が好きなのは、上原くんなのに…。
なんとなく気まずくて、何を話していいかわかんない。
私は、窓から見える月をぼんやり見ていた。