「1495日の初恋」
「宇佐見くん…好きな人いるの?」
「えっ?なんでです?」
「あ、うん…なんかそんな感じがしたから…歌い方かな…ううん、違う、声かな…好きな人に話かけるような優しい声だったから。」
「…そうですか。なんか、ありがとう。」
宇佐見くんにお礼を言われた私は、なんだかとても嬉しくなって、弾んだ声で話し続ける。
「あんな優しい声で歌われたら、きっと喜ぶと思うよ、その、宇佐見くんの好きな人もきっと!」
「…じゃあ…仮に、俺に好きな人がいたとして…この歌を聴いてもらったら…その人は俺を好きになってくれるんですかね…。」
「なるよ、なる!絶対なるって!」
少しの沈黙。
指を唇に当てて、宇佐見くんは言った。
「好きな人…なんていませんよ。」
「あ…そうなんだ…。でも、宇佐見くんみたいな優しい人に好きになってもらえる人って幸せだと思うよ…だってきっと…
「あっ!」
突然、私の話を遮るように声を上げる。
急用を思い出したと、宇佐見くんは言った。
「俺、急いでるから先に帰りますんで、ここ、閉めておいてくれます?」
「うん、もちろん。じゃ…また明日ね。」
宇佐見くんは後ろ向きに手を上げて、音楽室から出ていった。