「1495日の初恋」
「結、ちょっと来て。」
卒業式の前日、下駄箱のところで、上原くんに呼び止められた。
「えっ?なに?」
「ちょっと、いいから来て、早く!」
上原くんは、足早に歩き出す。
「ちょっと待って、どこに行くの?」
私の言葉には答えずに、上原くんはどんどん歩いていく。
校舎横のプール。
今はまだ使っていないから、人は来ない。
「結、こっち。」
プールの角を曲がって、上原くんの姿が見えなくなる。
走って追いかければ、更衣室脇に立っていた上原くんの背中にぶつかった。
「いったーい!」
おでこを抑えながら上原くんを見上げると、「ばか。」と一言。
「こんなとこに来て、なにかあるの?」
「あるよ。」
「な…何…?」
真剣な顔でこっちを向いた上原くんに、心臓がドンと震えた。
緑の匂いのする風が、頬を撫でるように吹いている。
足元のパンジーが、頷くように揺れていた。