「1495日の初恋」
私たちは、ふざけて名前を書いた。
マジックで書く度胸はなく、鉛筆で小さく書いた。
「ずっと残っていたら、すごくない?」
綾香が言った。
鉛筆だし、いつか消えちゃうって分かっていても、みんな「うん」と頷いた。
この時間が、ずっと続くような気がしていた、あの夏の日。
明日の卒業式を前に、上原くんは思い出いっぱいのこの場所で、何かのケジメをつけたいと言った。
なんだかそれは、永遠の別れを意味するようで、とても悲しくなった。
私の手の中にある上原くんの教科書は、懐かしい想い出がいっぱい詰まっている。
「もういらないんだ。」
上原くんの言葉が、頭をよぎる。
…もう、みんなとの想い出も、私との想い出も、全部いらないってことなんだろうか…。
私は、今でもこんなに好きなのに…。
もう一度、壁に書かれた名前を見れば、上原くんのだけ、流れ星のしっぽみたいな、指で擦った痕がある。
私は持っていた鉛筆で、みんなの名前をなぞった。
上原くんの名前は、一番力を込めて濃くなぞった。