「1495日の初恋」
「ちょっ、ちょっとまって。」
バタバタしながら、矢島くんの手を振りほどいた。
「だめ?」
「え?」
「ねえ、だめ?」
「いや、あの…だめというか…。」
「恥ずかしい?」
「う、うん…でも…。」
「目、つぶれば大丈夫だよ!」
ああ、そうじゃなくて…
もう、どうしたら逃れられる?
時折顔に当たる飛沫が、しょっぱくて泣きたくなる。
「ね、こっち向いて。俺のこと嫌い?」
「え、あ、嫌いじゃないけど…でも、ここは、ちょっと…。」
「あ、そうか、場所かー。うん、分かった。戻ろう!」
場所じゃなくて…ああ、どうしよう…。
矢島くんは、キスする気だ。
浜に、着いたら言わなきゃ。
無理だって。
できないって。
水の中は心地いい。
だけど、心はザワザワ落ち着かない。
矢島くんは、私の浮き輪を押しながら、ぐんぐん泳ぐ。
もう浜が、あんなに近くに見える。
必死に泳ぐ矢島くんの顔を見るたび、胸が苦しくなった。