「1495日の初恋」
唇攻防戦
男子のロッカールーム。
グイッと手を引かれ、断る間もなく個室に押し込まれた。
賑やかな砂浜から、少し離れた場所。
人けは少ない。
ここに来るまで、誰ともすれ違わなかった。
「大丈夫?」
大丈夫なわけがない。
矢島くんが私の顔を覗き込む。
私はブンブン首を振る。
ここは男子のロッカールーム。
だから、声も出せない。
狭い個室、どうしても体がくっついてしまう。
しかも、水着。
パーカーとハーフパンツは、外に置きっ放しで、身体は隠せない。
そりゃ、隠すほどのものじゃないけど、やっぱり隠したい。
私は胸の前で、手をクロスさせる。
矢島くんも私の気持ちが何と無くわかるようで、身体に触れていた両腕を私の後ろの壁についた。
ひゃあ…!
身体に触れない代わりに、矢島くんの手の中に囲われている状態。
矢島くんは上半身裸。
目線が泳ぐ。
どこ見ていいのか分からない。
動揺する私に、さらに動揺させる一言。
「ねえ、上原さん、ここならいいよね?」
私は、小刻みに首を横に振る。
無理無理無理!
「大丈夫、誰も見てないし、恥ずかしくないよ。」
矢島くんは、私の肩に手を置き、深呼吸二回して、目を開けた。
矢島くんの目を見て、来る!そう思った。
「目、閉じて…。」
ああ、やっぱり…
私はぎゅっと目をつぶった。