六月のピアノ
月光
――――冷たい月の光が、残酷なほど優しく彼の姿を照らす。
耳に聞こえる音は波が引いては寄せる、単調な調べ。
ベートーヴェンの、ピアノソナタ ――――月光。
なのに私の耳に響く音色は、真珠の粒が輝きながら落ちるような…そんな優しいピアノの音。
『…上手く弾けたね』
微笑む彼は、いつもあの時のままで…私だけが変わっていってしまう。
…いっそ、連れて行ってくれれば良かったのに。
離れてしまったことを何度も悔やんで…でも子どもだった自分には何も出来なかったことも分かっていて。
どこまでも広がる海に幻想的に映る月を見つめながら、私の頬を冷たい雫石が落ちた。