六月のピアノ
『…ねぇ、どうして 月光 なのにこんなに暗い曲なの?』
それは、かつて彼に聞いた言葉。…あぁ、やっぱりこれは夢なんだ……。
第三者のような視点から傍観しているわたしの前で、少し幼い顔のわたしに、彼は微笑みながら答えていた。
『さぁ……どうしてだろうね…。雪菜はどう、思う?』
『うーん、わたしは…』
――――夢の終わりはいつも同じだ。唐突に始まり、同じ場所で切れてしまう。
前に進むことも後ろに戻ることもなく、ただ淡々と、あの時の場面を繰り返すだけ。
――――わたしは、彼の問いかけになんて答えたのだろう。彼はどんな表情をしていたのだろう。
覚えているのは静かに燃えるような調べを奏でるピアノの音色と、窓から射し込む青白い月灯りだけ。
…どう頑張っても、どうしても、思い出せなかった。
それが、とても哀しかった。