六月のピアノ
アムプロムプチュ
――――ここのところあの時の夢をよく見る。そのせいかどこか神経が高ぶっているらしく、いつもならあり得ないところでミスタッチを連発してしまった。
…春山先生、呆れてらっしゃった。
ため息をつきながら、カップを揺らす。
大学のカフェテリアの窓際は、お昼過ぎの講義中の時間であるせいか、人は少なく閑散としていた。
先ほど、いつもは穏やかな表情の先生に「今日はもう休みなさい」と険しい表情でレッスンを早々に切り上げられてしまった。
私情に囚われたわたしを見透かされたような居心地の悪さと、気を遣わせた罪悪感のようなものが混じって、なんだかいたたまれなかった。
…なんで今さらあの日を夢みちゃうんだろう。
もうずいぶん経つ。日常生活の中ではほとんど忘れたように過ごしていると言ってもいい。
10年以上経った今さら、どうしてこんなにもかき乱されるのか、自分が分からなかった。
「ゆーきなっ」
「…わっ!」
頭の中で夢の断片を追いかけ、ぼんやりとラテを飲んでいたわたしは、後ろからの衝撃に文字どおり飛び上がった。
半分飲み終わっていたおかげで、カップの中がこぼれなかったことに安心して、肩の重みと振り向いた先のいたずらっ子のような笑顔に、めっと顔をしかめた。
「もう…何するの。危ないでしょう?」
「ふっふーん。びっくりした?」
「…こぼれたらどうするつもりだったの?」
「だーいじょぶだって。ちゃんと半分飲んでんの、確認してんだから」
…ほんとかなぁ。
じとっと疑わしい目つきで見上げると、奥西真子は「ハイハイ、わーるかったってー」と、全く悪びれた様子も無くわたしの向かいによいしょと座った。