六月のピアノ
「えっ…合コン?」
「そ」
満面の笑みを浮かべた真子から告げられたのは、予想外の言葉だった。
…まぁ、嫌な予感は当たっちゃったんだけど。
優雅にコーヒーを飲む姿に心の中でため息をついた。
わたしは基本的に対人関係を進んで築くようなタイプではない。
今までの20数年もずっと、相手のアプローチを待つだけの受け身の姿勢だった。
だから環境が変わる度に友達をつくるのが大変で、何度も苦労した。
変わろうと思うことやそのきっかけはあったけれど、結局はなかなか上手く変えられずに、今に至る。
「ちょっと待って真子。わたし」
「もー決まり!雪菜かわいいから絶対モテるって」
「そういう問題じゃなくて…わたしそういうの苦手だから」
「だーいじょぶだいじょぶ。私が服もメイクも見立ててあげるって」
「だからちが」
「雪菜にはもちろんタダだから安心しなよっ。とびっきり可愛くおしゃれにしたげるから。あー楽しみ~」
「……」
…だから、そういう問題じゃないんだってば……。
全く話を聞いていない真子の態度に、どっと疲労感が襲ってきた気がした。
こんな風に振り回されることは、ほとんど毎日だけど、それが心地よくもあるのは彼女の明るいキャラクターと、人の心をよく汲み取る洞察力のおかげではないかと思う。
今のわたし自身、困惑してはいるけど『絶対にイヤ!』っていう拒絶の気持ちは全くない。
伝えることが苦手で口下手なわたしの些細な心の動きを、なんなく読み取ってくれる真子の存在は、本当に貴重だった。
「…分かったよ。今回だけね」
本当に楽しそうな顔に抵抗するのを諦めて了承すると、真子はにっこりと微笑んだ。
「さんきゅ。雪菜ならそう言ってくれると思ってた」
…もう、調子いいんだから。
そう思いながらもなんだかおかしくなって、くすくす笑ってしまった。
そんな穏やかな昼下がりだった。