ある日、いじめが始まった。
青東中学校から私の家までは徒歩20分。
暗く外灯の少ない道を私は早歩きで帰っていく。
何も考えたくなかった。
何も……何もかも……
そしてやっとの思いで着いたわが家。
「………ただいま」
リビングにいる母に活気のない声でそう呟く。
「おかえりー。あれ、あんたどしたんね。昨日と全然態度が違うじゃん」
母は私の顔を覗き込む。
……そりゃそうだ。
昨日はまさか今日こんなことになるなんて思ってもなかったんだから。
「昨日は部活楽しかったーってあんなに笑顔で帰ってきたのに。部活で何かあったん?」
「まあ……ね。でも夏休みの練習はお盆以外全部あるけん頑張って行くよ」
「そんなに練習あるんじゃ!まあ頑張ってね。あんたは転部をしたことで内申点下がっとんじゃけ、もう部活をやめるようなことはできんけんね」
「分かっとるよ…」
そんな会話をしながら私は自分の部屋へ入り、バッグを乱暴に放り投げる。
そして大きなため息をついた。
青東中学校は部活に入るのが絶対。
そして部活を転部したりすると当然のごとく内申点が下がる。
内申点が下がると成績に関係し高校受験の時に不利になってしまう……
そういう仕組み。
私はそれを分かった上で美術部をやめることを決心し、そして卓球部に入った。
だから何があっても卓球部はやめる訳にはいかない。
「何があっても絶対にやめるもんか…」
明日からの夏休み。
地獄の夏休みを生き抜いてやる。