ある日、いじめが始まった。
「川原 千秋……と。確かに転部届けは受け取った。今日からは卓球部の一員として懸命に練習に励んでくれ」
「は、はい!頑張りますっ!」
私は卓球部の顧問・平井に深々と頭を下げる。
今日は1学期の終業式の前日。
私は入学してすぐに所属した美術部を辞め、卓球部に転部届けを出していた。
そして今は卓球部員が熱心に練習している体育館の中で顧問の平井から部活について色々と説明を受けている所である。
「じゃあ…まだラケットは持ってないだろうから倉庫にある物を使ってくれ。それと、1年生は体育館の外で基礎練と壁打ちが主だからそちらに合流しなさい」
平井は無表情で淡々と説明をする。
この平井、という顧問の第一印象。
それは怖いの一言に尽きなかった。
度が強そうな眼鏡をかけ、あまり剃られていない髭やボサボサの髪を見るに、外見はそこまで気にしていないのだろう。
体型は縦もあり横もある大男、というイメージが強かった。
そして極めつけは表情。
決して笑顔を見せようとせず、いかなる時も無表情を貫き通すその様はまるで氷のように冷たかった。