ボーダーライン
「さっきゴソゴソ何してたの?」

チャイムが鳴ると玲子ちゃんが私にきいてきた。

「やー、前髪がうざいからさ、ピンで留めとこうと思って」
「そっか。で、見つからなかったのね」
「うん」

そんな大きいポーチになんでもつっこんでおくからだよー。そもそも整理整頓が下手だよねと言われていたとき、アキから声をかけられた。

「あたしいつも持ってるから良かったら使って」

アキ-まだそのころはサハラさんって呼んでいたんだっけ-は鞄の中に入れていたポーチからパッチン留めを取り出すと、私に差し出したのだった。

「あ、ありがとう。でもこれ借りちゃったら砂原さんが困るでしょ?」
「私は前髪切ったばかりだから大丈夫。飾りの向きがあるからつけたげるね」

アキの手が私の頬に触れたその熱さを、私は今でも覚えている。

「はい、これで良し。そうやっておでこ出してる方がカワイイのに」
「ホントだ。美佳ってばずっと前髪おろしてたけど、あげてる方がいいじゃん」

息が触れるくらい近くで、アキのふわふわした髪の毛が揺れる度に、かすかに甘い匂いがした。
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