【続】恋愛のやり直し方
「俺のお袋はさ、子供の俺が見たって華やかな人だった。

派手な印象はないけど、あの人の周りにはいつも穏やかな陽が降り注いでいるみたいに暖かくて

いつでも人の幸せを考えてる、女将が天職みたいな人だった」



「『だった』?」



「俺が15歳のときに亡くなってる。もの心ついた時には、俺とお袋は緑風館隔絶された離れに住んでいた。

病に倒れたお袋は、緑風館に立つことを死ぬまで許してもらえなかった」




私を見つめているのに、その視線はどこか遠くを見ている。




「だけど、ガキの頃の俺はさ、お袋と二人の生活が楽しかったよ。お袋が、時々寂しそうな顔をすることがあることを除けばね。

きっと、女将の座を亮子さんに譲らざるをえなかったお袋は、さぞ無念だったんだろうと思う。


だけど、恨み言ひとつ言わずにあっけなく逝った」



「……」



天職を失った悲しみ。
一人息子をおいてこの世を去らなくてはいけなかった無念。



どれほど悲しくて、どれほどこの世に未練を残して逝ったのだろうと考えるだけで、胸が痛い。
< 301 / 486 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop