縛鎖−bakusa−
大嫌いな雨だけど、今日はそれ程嫌な気分では無かった。
心に巻き付きジャラジャラと不快な音を立てる鎖。
水谷徹の残した鎖。
それを外せる希望を感じているから、珍しく気分は前向きだ。
寿荘までの道すがら、見知らぬ浮遊霊を見かけるが、今日は目障りと思わず
「あんたも大変だね…」
そんな気持ちにさえなる。
しっとり濡れて緑を濃くする夏草。
湿ったアスファルトの匂い。
雨の日の匂いを感じながら寿荘まで戻って来た。
すぐに沢村幸則の姿を見付けた。
彼は外階段の中腹に立ち、ニコニコしながら私に手を振っていた。
思った通り。
やっぱり雨の日は出て来やすいのだ。
やっと会えた事が嬉しくなり、カンカンと足音を響かせて雨でびしょ濡れの鉄階段を上った。
『やあ、千歳ちゃん、買物帰りかい?』
彼は相変わらず霊体らしくない明るい調子で話し掛けてきた。