縛鎖−bakusa−
嬉しかった。
鎖が外れるのはもうすぐなんだと思うと嬉しくて堪らない。
この鎖は苦しくはないが不快なんだ。
いつも心に異物を感じる。
それも黒い想いの詰まった異物だ。
それがやっと外れる。
解放されて久々のスッキリした気分を味わえる。
「沢村さん、ありがとうございます!」
元気良くそうお礼を言った時、
背後で「え!?」と驚く女性の声がした。
ヤバイ…
つい嬉しくて…人がいる事に気付かなかった…
降りしきる雨しか見えない空間に向け、お礼を言う女子高生。
しかもここは余所のアパートの階段だ…
不審者扱いされ問いただされる前に逃げようとした。
傘で顔を隠し、女性の横を摺り抜け、階段を駆け降りる。
走って逃げようとしたが、女性の必死な声が私の足を止めた。
「待って!逃げないで!
お願い…教えて?
沢村って…沢村幸則?あの人が居るの?」
私を引き止めたのはミカさんだった。
赤い傘を差し階段の下段に立つ彼女と、黄色いレインコートを着たリク君がいた。