縛鎖−bakusa−
「あなたは…いつも買物に来てくれる……
ねぇ教えて?この前霊感あるって言ってたよね?
居るの?沢村が…あの人がここに居るの…?」
レジに立つ時彼女はいつも笑顔だ。
素敵な笑顔を絶やさない彼女が今…
凄みを感じる程の真剣な目をして私を見ている。
長靴で水溜まりに入りバシャバシャと遊んでいたリク君が、
「ママー!パパいるよー!」と今日も言った。
前回は「パパはお仕事中」と言ったミカさんだが、今は違った。
「居るのね…あの人がここに居るのね…」
ハラハラと涙を流し、ミカさんは息子の指差す階段の中腹を見つめた。
どうしていいのか分からず立ち尽くす。
沢村さんが成仏出来ずにさ迷っている事を教えるべきか…
間に立ち、彼の見えない言葉を通訳するべきか…迷う。
そうしてあげたい気持ちはある。
けれど…
もしそれが沢村さんのやり残した事に繋がれば…
彼の足首の鎖を外す事に繋がってしまえば…
私は二人目の願いを叶え、自分の命を縮める事になる。
沢村さんもミカさんもいい人だ。
二人の役に立ちたい思いと、自分の一年分の命を天秤に掛け口ごもる。