縛鎖−bakusa−
 


ミカさんは傘を投げ捨て階段を掛け上がる。


リク君もきゃっきゃと楽しそうに笑いながら、

母親を追い掛け一段一段上って行った。



「この辺り?」とミカさんが私に聞く。



「はい、ミカさんより一段上に沢村さんは立っています」



ミカさんが手を伸ばし彼に触れようとする。



触るのは…

霊障を気にして止めようとしたが、心配はいらなかった。



沢村さんはふわりと宙に浮いて、彼女に触れない様に気をつけている。



彼女には見えないけど私にもリク君にも沢村さんにも見えている。



久しぶりに親子三人、寄り添う様に立つ姿が…



宙に手を伸ばしたままミカさんは言った。



「私、あなたに言わなければならない事が…

再婚したの…

あなたに対する裏切りじゃないかと悩んだけど…

あなたが居なくなり支えてくれる謙次さんに結婚を申し込まれて…

私…不安で…頼れる人が欲しかったの…

ごめんなさい…」



『謝らないで。分かっているから。

ミカ…大丈夫だよ。

君を責める気持ちはない。僕は君とリクの幸せを願うだけ』




沢村幸則の言葉を代弁しながら、胸の中が熱くなった。



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