縛鎖−bakusa−
いい奴『だった』
親友『だった』と彼は言った。
なぜ過去形なのかと気になったが、通訳に忙しく深く考えられなかった。
雨脚は弱まってきていた。
傘を投げ出したミカさんに当たる雨も今は優しい…
私の差している傘に響く雨音も
ポツ…ポツ…ポツ…と緩徐になり、やがて止まった。
空一面を覆っていた灰色雲に切れ間が見え、綺麗な水色が覗いていた。
濡れた外階段は光りが差し込み、霊体には辛い場所となる。
沢村幸則が言った。
『晴れたね…そろそろ移動するよ。
幽霊は暗い場所にいると昔から決まっているからね。
ミカ、元気でね…リクを頼むね…
君の本当の幸せ…祈っているから…』
「また話しが出来る?」
彼女は聞いた。
私が通訳すればこう言う機会をまた作る事が出来るだろう。
しかし沢村幸則は首を横に振り、彼女にではなく私を見て言った。
『そうだ、千歳ちゃんにイイ事させてあげるよ。
君の心の鎖を外すのに必要な、イイ事ゲージを満タンにさせてあげる』
「本当ですか!」