縛鎖−bakusa−
3
雨の中、傘を差していつものスーパーマーケットに買物に行った。
食品を詰め込んだカゴをレジに置き、会計が終わるのを待つ。
レジに立つのはミカさんではない。
彼女はもうこの店で働いてはいない。
寿荘からも引越して、どこにいるのか私には分からなかった。
分かっているのは善人面した殺人犯が逮捕されたと言う事だけ。
つい最近まで水谷徹の件を報道していたテレビのワイドショーは、
今は沢村幸則殺害事件について、
しつこい程に同じ内容の報道を繰り返していた。
急性心不全とされた夫の死は、実は再婚相手の仕業だった。
それを証明したのは沢村幸則が息子に贈ったクマのぬいぐるみ。
ぬいぐるみが沢村の無念と真実を伝え、偽りの幸せを破壊した。
悲しい正義の勝利…
マスコミが好きそうな話題だ。
―――…
スーパーマーケットを出て雨の中を歩く。
寿荘を見ない様に俯いて…
心に新たな鎖を巻き付けて……
私は沢村幸則に騙されていた。
誰の願いも二度と叶えないと、あんなに壁を高くしていたのに…
その壁は彼の偽りの笑顔と優しさで崩されてしまった。