縛鎖−bakusa−

 


雨の中、傘を差していつものスーパーマーケットに買物に行った。



食品を詰め込んだカゴをレジに置き、会計が終わるのを待つ。



レジに立つのはミカさんではない。

彼女はもうこの店で働いてはいない。



寿荘からも引越して、どこにいるのか私には分からなかった。



分かっているのは善人面した殺人犯が逮捕されたと言う事だけ。



つい最近まで水谷徹の件を報道していたテレビのワイドショーは、

今は沢村幸則殺害事件について、

しつこい程に同じ内容の報道を繰り返していた。



急性心不全とされた夫の死は、実は再婚相手の仕業だった。



それを証明したのは沢村幸則が息子に贈ったクマのぬいぐるみ。



ぬいぐるみが沢村の無念と真実を伝え、偽りの幸せを破壊した。



悲しい正義の勝利…

マスコミが好きそうな話題だ。




―――…


スーパーマーケットを出て雨の中を歩く。



寿荘を見ない様に俯いて…

心に新たな鎖を巻き付けて……



私は沢村幸則に騙されていた。



誰の願いも二度と叶えないと、あんなに壁を高くしていたのに…


その壁は彼の偽りの笑顔と優しさで崩されてしまった。



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