縛鎖−bakusa−
トンネルに一歩足を踏み入れた。
今日は小さなトンネル内に6人の霊体が居る。
トンネルに入って来た私を見ると、一人は不気味な笑顔を向け、
一人は隠れる様に壁の中に消え、
一人は冷たい腕を伸ばして来る。
『タスケテ…』
足首の鎖をジャラリと鳴らして、ボサボサの長い髪の女性が言う。
『ワシのウデを…サガシテクレ…』
左腕を肘の所で失い、赤くぬらぬらとした肉感の切断面を見せて、お祖父さんが言う。
嫌だ。
どの鎖も重そうだ。
私が求めるのは怨念の篭らない軽い鎖。
トンネル内の浮遊霊達を巧みにかわし前に進む。
出口付近の壁際に今日も膝を抱える亮介君を見た。
今まではチラリと見て無言で通り過ぎたが、今日はピタリと足を止めた。
亮介君の右足首に巻かれた鎖をじっと見下ろす。
この鎖なら軽そうだ…
幼い頃は彼を救いたいと言う気持ちを持っていた。
12歳で生を終えた少年が、トンネル内で何年も母親を待ち続けている姿に確かに同情していた。
彼を救わないと決めた時ちっぽけな良心に傷を付け、
ここを通る度に罪悪感に似た苦しさを感じていた。