縛鎖−bakusa−
12年振りにやっと現れた母親は、亮介君の存在に気付く事は無かった。
あんなに待っていたのに…
やっとやり残した想いを遂げられると思ったのに…
亮介君は崩れ落ち、わあわあと声を上げて泣いていた。
その姿を私は冷静に見詰める。
哀れだとは思うが同情は出来なかった。
汚染された心は黒く蝕まれ、ただ彼の鎖の重さを目で計るだけ。
泣き続ける彼の方にゆっくりと近付いて行く。
コツコツとブーツの踵を鳴らし、トンネルに反響させ、
入口まで戻った私は彼を見下ろし言った。
「亮介君の願い、私が叶えてあげる」
彼はピタリと泣き止んだ。
そして驚いた顔して私を見上げた。
12年鎖に繋がれても汚れの知らない純粋な瞳。
彼の想いは怨念ではない。
母親に隠し事をしたまま死んでしまい、それを打ち明け謝りたいと言っていた。
私が知る中で一番軽い鎖は恐らく亮介君の鎖だ。
その鎖に取り替えたい。
今の重い鎖を外しその軽い鎖に取り替えたい。
亮介君は立ち上がった。
私が言い出した事にまだ驚いている様子で、
ジッと見詰める眼差しは純真無垢。
生きている私の瞳の方が余程汚れていると思った。