縛鎖−bakusa−
厳しい目を向けていた彼女は動揺し始めた。
初めは私の言葉を嘘だと決定付ける、証拠探しをしながら聞いていたのだろう。
しかし聞いている内に本当の話しに聞こえて来た。
事故当時の息子の服装が当たっている。
外見的特徴も話し方も当たっている。
でも…否定する気持ちを捨てるのも辛い。
私の言葉を信じるとなると、亮介君が12年も成仏出来ずに苦しんでいると…
母親にとっては、この上ない残酷な事実となってしまうのだ。
彼女は右手を左手でギュッと握りしめ、唇を震わせながら私に言う。
「それだけですか…?
それだけならまだ完全に信じる訳には…」
「これからですよ。この先が本題です。
亮介君はあなたに嘘をつき隠し事をしたまま死んでしまった。
それを謝りたいと言っていました。
その隠し事を伝えればあなたは必ず信じる。
だって、亮介君しか知り得ない事実ですから」
私は立ち上がりリビングを出ようとした。
「どこへ?」と彼女も慌てて後ろに付いて来る。
「亮介君の部屋です。
もしかして、もう片付けてしまいましたか?」