縛鎖−bakusa−
透明な手は髪から首筋に移動し、冷たい指先が肌に二本の線を引いた。
触れられた首筋にピリッとした痛みを感じる。
ヤバイ…
いくら私でも、濃度の濃い霊気に当たり続けていれば…霊障を受ける…
潤一先輩が
「あれ…?」と言いながら私を見て首を捻った。
「え…?な、何ですか…?」
「首、首の左側の所。
何か赤い線が…×印みたいな線が付いてるよ?」
慌てて首を両手で押さえた。
持っていたお握りが芝生の上に転がった。
「あ…授業中に…ペンで…首が痒いなーって…」
途端に皆が笑い出す。
「千歳ちゃん、天然ちゃん決定〜。
首が痒くてペンで×印書くなよ〜。
アハハッ可愛い〜」
私は天然ではない。
どちらかと言えば真逆のタイプだ。
したたかで損得を考え行動する。
我が身可愛さに幼い魂の救済を拒む様な女だ。
けれど、天然キャラの方が男受けすると知っているので、否定せず笑ってやり過ごす。
『キミハ…ヤラレテ…ステラレタイノカ…?』
彼は問いを残して消えた。
姿が校舎の壁を通り抜け見えなくなった。
しかし…
足首に巻かれた鎖の音はまだ小さく聴こえていた。
ジャラ…ジャラ…ジャラ…
皆には聴こえない冷たい金属音が、私の耳にだけ響いていた……
―――――…