縛鎖−bakusa−

 


6月。雨の日が増えて憂鬱な気分になる。

雨は嫌いだ。霊体の姿が増えるから。



鈍よりとした分厚い雲、影さえ出来ない暗い道。

雨粒がサァサァとアスファルトを黒く塗り潰すと、そこかしこで彼らを目にする。



高校の授業を終えて、友人の美里(ミサト)と二人正面玄関を出た。



ピンク色の傘を差していても制服の端や学生鞄が濡れてしまう。



レンガで囲まれた円形の花壇には、水色の花を咲かせた紫陽花が無言で冷たい雨に打たれていた。



こんなに鬱々とした天気だけど、美里は明るく少しだけ頬を染めて私に話す。



「今日ね、悠紀(ユウキ)先輩と三回もすれ違っちゃった!」



「すれ違うだけじゃ美里の存在に気付いて貰えないよ?

思い切って話し掛けたら?」



「え〜無理だよそんなの。ドキドキして何も話せないよ。

今は見ているだけでいーの。

だからさぁ、千歳、次の日曜予定ある?」



「だから?接続詞の使い方間違ってるよ?

予定はないけど。洗濯して掃除して、スーパーに買物行ってご飯支度するくらい」



「忙しいね…千歳はえらいよ…お母さんの代わり…頑張ってるね…」




美里は優しい子だ。

私達は高校からの友人関係で、入学したてのそれ程仲良く無い時なのに、母を失った私の為に泣いてくれた。



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