縛鎖−bakusa−
2
6月。雨の日が増えて憂鬱な気分になる。
雨は嫌いだ。霊体の姿が増えるから。
鈍よりとした分厚い雲、影さえ出来ない暗い道。
雨粒がサァサァとアスファルトを黒く塗り潰すと、そこかしこで彼らを目にする。
高校の授業を終えて、友人の美里(ミサト)と二人正面玄関を出た。
ピンク色の傘を差していても制服の端や学生鞄が濡れてしまう。
レンガで囲まれた円形の花壇には、水色の花を咲かせた紫陽花が無言で冷たい雨に打たれていた。
こんなに鬱々とした天気だけど、美里は明るく少しだけ頬を染めて私に話す。
「今日ね、悠紀(ユウキ)先輩と三回もすれ違っちゃった!」
「すれ違うだけじゃ美里の存在に気付いて貰えないよ?
思い切って話し掛けたら?」
「え〜無理だよそんなの。ドキドキして何も話せないよ。
今は見ているだけでいーの。
だからさぁ、千歳、次の日曜予定ある?」
「だから?接続詞の使い方間違ってるよ?
予定はないけど。洗濯して掃除して、スーパーに買物行ってご飯支度するくらい」
「忙しいね…千歳はえらいよ…お母さんの代わり…頑張ってるね…」
美里は優しい子だ。
私達は高校からの友人関係で、入学したてのそれ程仲良く無い時なのに、母を失った私の為に泣いてくれた。