縛鎖−bakusa−
母の話しを出した彼女は、言った後に「しまった」と思ったらしく気まずい目線を私に向ける。
別にそんなに気を遣わなくていい。
母の死から約二ヶ月。
私の中で収まるべき所に収まっている。
「しんみりしないでよ。私は大丈夫。
今は悲しいと言うより決意を新たにした感じ」
「決意?何の?」
「うん、長生きの決意。
何か話し逸れたね、何の話しをしてた…ああ、日曜日の予定ね。
付き合うよ。ショッピング?雨じゃなきゃ付き合う」
「悠紀先輩のバスケの練習試合!体育館だから雨関係ない」
「ふーん。それでも雨なら行けないかな。晴れと曇りなら行く」
「千歳って、本当雨嫌いだよね」
雨は嫌い。大嫌い。
そこかしこで悲しい目をした霊達が訴えて来る。
ほら今も…
校門を出ようとして、校名を貼付けた煉瓦の柱の横に、詰め襟の学生服を着た男子生徒を見付けた。
うちの高校の制服は男女共にブレザーだ。
半透明な彼はうちの生徒では無いと思うのだが…
何故ここにいる?
一瞬興味を駆られるが、すぐにその気持ちを押し殺す。
私以外の誰も彼には気付かない。
隣の美里も雨の中楽しげに私に話し掛けるだけ。
彼は虚ろな目をして、ただ目の前を通り過ぎて行く下校中の生徒の列を眺めていた。
無害な霊体か…気に留める必要はない。
美里の話しに相槌を打ちながら、彼の存在を無視して横を通り過ぎ様とした。
その時…
彼が透明な腕を持ち上げるのが視界の端に映った。
その手は美里の右腕に触れようと伸びて来る。
慌てて鞄と傘を投げ捨て、美里の左腕を強く引っ張り彼から遠ざけた。