縛鎖−bakusa−
バタバタと走り去る音を聞きながら考える。
あの後意識のない先輩をそのままに逃げ帰ったが…
先輩の中であの件はどうなっているのかと…
さっき私を見た彼は、鬼かお化けにでも会ったかの様な慌て振りだった。
明らかに私に恐怖を抱いている。
もしかして…
私が呪いでもかけたせいで、悶絶する程の苦痛を味わったと思っているのだろうか?
違う…とは言い切れないか。
私が頼んだんだ。
黒い学生服の彼に…助けてと…
向こうも避けたいと思うなら好都合。
二度と気持ち悪いあの顔を見たくない。
どうしてよいか分からず乱れた服を直しながら困っているのは、
確か…隣のクラスの女の子だ。
名前も知らないその子に
「あの人、手当たり次第の最低なタラシだよ」
と一言忠告してドアを閉めた。
別の空き教室へと思い再び暗い廊下を歩き始めた時、
小さく鎖の音を聞いた。
驚きはしなかった。
今日は雨。絶好の霊体日和。
今日辺り現れるのではないかと思っていた。
私と交わした取引の代価を求める為に…
鎖の音は徐々に大きくなり、真後ろまで来た。
蒸し暑く澱んだ空気にさっきまでジットリと汗ばんでいた体が、
冷蔵庫に入ったかの様な冷気を浴びて鳥肌が立った。