縛鎖−bakusa−
 


黒い学生服の彼は名前を水谷徹(トオル)と言った。

死亡したのは15年前、17歳の時。

まさに私が立つこの場所で自殺した。



彼は虐めを受けていた。

何もしていないのに…

毎日ひっそりと真面目に授業を受けていただけなのに…



「キモイ」「ウザイ」「シネ」

クラスメイトの数人は、まるで挨拶を交わすかの様に日常的にそんな言葉を彼に放った。



初めは言葉のみだった暴力は、やがてエスカレートして行く。



教科書を破られ、上靴を捨てられ、机の上に仏花を置かれた事もあると言う。



水谷徹は悔しかった。

何故そんな仕打ちを受けねばならないのかと、日々自問自答し続けていた。



悩みの中に塞ぐ毎日。

その頃から急激に成績が落ちた。

勉強なんてしている気分じゃない。

ただ鬱々と心の中で出口の見えない問答を繰り返していた。



彼の両親は息子の虐めに気付けなかった。

彼が気付かれない様に振る舞っていたからだ。



成績の下がった彼に父は言った。

「真面目に勉強しているのか?」と。



母も言った。

「もっと頑張りなさい」と。



限界間近だった彼に…

残念ながらそう言ってしまったのだ…




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