縛鎖−bakusa−
 


水谷徹は自分の机に一冊のノートを置いて逝った。


虐めた生徒の名前を書いて、彼らが自分に何をしたのかを事細かに印し、

最後に「怨む」と言葉を残した。



彼の悔しさの詰まったノート。

溢れ出した絶望を詰め込んだノート。



しかし…

そのノートは加害生徒の目にも、彼の両親の目にも触れる事は無かった。



水谷徹の死体の第一発見者はクラス担任だった。


山本と言う当時26歳の若い女性教師だ。



帰宅しようとした山本先生は教室に忘れ物をした事に気付き、夜8時に教室の電気を付けた。



パッと明るい光が灯り、浮かび上がったのは…

自分の生徒の哀れな姿。



彼女は絶句した。

呆然として頭の中が真っ白になり……

数秒して戻って来た思考力で真っ先に考えたのは

「マズイ…」と言う言葉。



山本先生は彼が虐めを受けている事実にうっすらと気付いていた。



けれど本人からは救いを求められなかったし、自身は研修会を間近に控えていたので、

多忙さの中でもう少し様子を見ても大丈夫だと放置していた。



ぶら下がる悲しい姿を見て彼女はやっと気付いた。

事態は自分が思うより深刻だったのだと…



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