縛鎖−bakusa−
震えながら辺りを見回した彼女は、水谷徹の机に一冊のノートが置かれているのに気付いた。
彼の遺書であるとすぐに気付いた。
そして…
そのノートを自分の鞄の中に急いで隠した。
読まなくても書かれている事に予想はつく。
虐めた生徒への恨みつらみ。
虐めがあったと外部に知れたら、自分が糾弾されるだろう。
もしかすると、何もしなかった自分を非難する言葉もそこに書かれているかも知れない。
一瞬でそう頭を巡らせ彼女は決めた。
水谷徹のノートを無い物とする事を…
―――…
ザアザアと雨音が強くなった。
稲光が空き教室を時折明るく照らし出す。
強い光りに床に影が伸びるのは私だけ。
目の前に立つ水谷徹には、当然影は出来ない。
実体は失われているから。